知的財産管理技能士には「特許」「コンテンツ」「ブランド」といった専門領域が存在する。「特許」の技能士はいわゆる理系の方がかなりの確率を占めると想像される。「コンテンツ」や「ブランド」の技能士は比較的文系の方が多いのかもしれない。そして各領域には年齢、業種、職種が異なる技能士が存在する。今回推薦する本が、そんな多種多様な技能士会員に遍く役立つものとなり得るかはわからないが、そうなることを願って紹介したい。
まず始めに、森博嗣という小説家をご存じだろうか。簡単に経歴を紹介すると、国立N大学工学部建築学科の助教授時代に小説を書き始め、1996年に「全てがFになる」というミステリーでデビュー。この作品は何度もメディアミックス化された人気作である。近年は新書判エッセイを多数出版しており、今回紹介する本もその1つである。ちなみに、これまでの著作を読んでいなくても全く差し支えないので安心していただきたい。
この本はタイトル通り、森博嗣という作家の収支を明らかにしたものである。これまで、小説家というと「芥川賞受賞で○○万部ベストセラー」とか、「入った印税が○億円」といった情報が時折入ってくるばかりで、詳細は不明なことが多かった。作家サイドは業界内の事情を積極的に広めるつもりはなかっただろうし、読者側の多くもはっきりさせない方が「作家という職業」に夢を見られることもあり、今までは公開される状況にならなかったと思われる。
しかしこの情報が一部の人々(作家志望者など)にニーズがあると考えた著者は、自分の持っていたデータを分析し本にまとめた。内容は多岐に渡り、「時給に換算するといくら」という話から印税率、発行部数の比較、果ては「衣装は駄目だが自動車は経費」というところまで展開されており、大変読み応えがあった。作者の語りは研究者らしく明快だが、時々ユーモラスになるので飽きさせない。テーマも著作権に直結したものなので、きっと興味深く読めるだろう。